Weaving Peace Together 〜九州・沖縄から考える〜

2025/12/14
Weaving Peace Together 〜九州・沖縄から考える〜

One Month for the Future(以下OMF)では、12月5日(金)にVegan Foods & Drinks SONU SONUで『Weaving Peace Together ともに織りなす平和 〜九州・沖縄から考える』と題するイベントを開催した。このイベントは、福岡を中心に社会運動の機会を提供するumbres(アンブレス)との共催で行われた。

OMFからは佐々木彩乃、umbresからは花井美仁さんが登場し、さらに三線(さんしん)奏者・アクティビストの桑江優稀乃さんを登壇者に迎えた。桑江さんによる華やかな三線と歌の披露に始まり、終始和やかな雰囲気に包まれた会であった。

なぜいま「九州・沖縄」から平和について考えるのか

沖縄と平和の問題は戦後長い間議論されてきた話だ。しかし昨今、平和の問題は九州全域で火種を燻らせている。

たとえば熊本における長距離ミサイル配備の問題がある。陸上自衛隊の駐屯地が奄美諸島に開設されたのも記憶に新しい。そして台湾有事を巡る首相の発言が物議を醸しているいま、これらは単なる沖縄や九州の問題ではない。

OMFは水俣での活動でも、語られざる言葉や可視化されていない問題に光を当てようとしてきた。平和の問題もその一つである。今回のイベントは、そういったセンシティブな問題について市民が安心して語り合える場があまりに少ない、という危機感から開催されたものである。

この平和の問題を語る時、特に大事なのが沖縄の視点である。太平洋戦争の際、沖縄では凄惨を極めた地上戦が行われ、その後27年間にわたってアメリカによる統治が続いた。そうした沖縄という歴史的風土の内側から窓の外を眺めたとき、平和は鋭利な針の上で片足立ちしているような、強風に煽られてロウソクの火が揺らいでいるような、そんな危うげなものとして浮かび上がることであろう。私たちOMFが寄り添おうとしたのは、沖縄の日常生活の一瞬一瞬から見える、かくも繊細な平和の姿である。

沖縄とそれ以外の地域の間に横たわるもの

沖縄とそれ以外の地域の間には、なぜさまざまな問題が横たわっているのだろうか。

あえて強い言葉を用いるなら、その原因は、いわゆる「本土」の安全保障と利便性のために過度な軍事的な負担を一方的に押し付け、沖縄の人々の自己決定権や人権を踏みにじる植民地的な構造にあると言えるだろう。

沖縄県には在日米軍専用施設面積の約70%が集中しており、長年の問題となっている。しかし関連する話題が「本土」のメディアに取り上げられることは稀である。辺野古基地移設についても7割近くの沖縄県民が反対を示していたが、民意は無視され続けている。

戦後だけの問題ではない。戦前には、沖縄と日本の間に厳然とした差別が存在していた。明治時代の琉球処分ののち、同化政策が進められた沖縄の人たちにとって、明治から昭和にかけての日本は生きにくい国であったに違いない。そうした差別が長らく存在したにも関わらず、戦後沖縄の人たちが日本への復帰を切望したのは、平和憲法のある国に入りたかったからだ、そう桑江さんは熱弁した。

しかし、平和憲法を持つ国に復帰したあとも、沖縄から軍事基地はなくならかった。その実態は、日米両国による二重植民構造である。こうした構造が今も何食わぬ顔で残っているというのは、主権国民たる日本人の大部分の無意識と無行動を暗に物語っている。

音楽と対話(ゆんたく)から見えたもの

三線と歌に包まれてそこに集う人々は何を思ったのだろうか。

想像以上だったのは、音楽の持つ力が人々の語る言葉を変えたことだ。グループごとにお互いの思いを届ける対話(ゆんたく)の時間では、音楽のおかげで平和や戦争について安心して話すことができた、という感想を洩らす参加者が少なくなかった。たしかに、昨今SNSやパブリックスペースでの言論が「炎上」というラベルのもと弾圧されていることを想うと、私たちは「ただ思っていることをつぶやくのさえ憚られる時代」を生きているのかもしれないということにあらためて気付かされた。

SNSとAIの時代に思うこと

沖縄には古くから「いちゃりばちょーでー」という言葉がある。これは、一度会ったらみんな兄弟、という意味である。

だから今日会ったみなさんは兄弟なんです、と桑江さんは語る。トランプさんも高市さんも兄弟だと思ったら、どんなに考えていることは違っても、膝を合わせることができる気がするんです、という彼女の言葉を沖縄の内側から発せられたものとして噛みしめる時、そこには「チッソは私であった」と語る緒方正人さんを想わせるものがないだろうか。

匿名性の高いSNSが攻撃的な発信に繋がったり、生成AIが他人の声や画像をすり替えて私たち自身の言葉と想像力を奪ったりするのを見るにつけても、私には、お互いの差異を乗り越えて「いちゃりばちょーでー」として繋がるコミュニケーションの技術と忍耐力が、日に日に私たちから失われているように感じられる。じつは私たちが得ているのは便利さではなく、視界不良である。そうして四方八方の視界がどんよりと曇っていく時代だからこそ、本当に必要なのは生の声、生の言葉、生の表現に触れる機会ではないだろうか。

平和であることとは

桑江さんが平和について伝えたいことはシンプルである。

私たちが望むのは、生まれてきた命がただ安心して生きていけることだけなんです。

平和をこれ以上明快に説明する言葉を、私はほかに知らない。平和について語るとき、私たちは往々にして何をどこから語れば良いのか戸惑ってしまうものだが、それは、自分たちの当たり前の幸せを当たり前のままに言葉にする、という根本的なことを忘れがちだからなのではないだろうか。桑江さんの言葉には、芯に食い込む強さと温かさがあった。

平和の問題は「他人の問題」とみなされがちだが、戦争によって「自分の問題」となったときには手遅れである。平和が手のひらの中にあるうちに、両手の指の間からこぼれているものはないか、胸の内を吐き出しながら話してしまえる、そんなありがたみを感じられる会であった。

鷲見雄馬
鷲見雄馬 Yuma Sumi
東京藝大中退。プロのバレエダンサーとしてジョージア国立バレエ団で活躍。2012年ベルリンTanzolymp銀賞。 現在はスタートアップでソフトウェアエンジニアとして働く傍ら、フリーランスのダンサーとしても活動。 グローバルシェイパーズコミュニティの北アジア地域におけるコミュニティチャンピオンも務める。元グローバルシェイパーズコミュニティ福岡ハブ。
記事一覧に戻る

お問い合わせ


One Month for the Futureへのお問い合わせは、Instagram または メールアドレス からご連絡ください。

通常、3営業日以内に返信いたします。
お気軽にご質問・ご相談ください。