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水俣病と気候危機の共通点を探り、環境正義の実践を語る:対話イベントを東京大学で開催しました

2024.11.01

#水俣プロジェクト
水俣病と気候危機の共通点を探り、環境正義の実践を語る:対話イベントを東京大学で開催しました

2024年9月15日、東京大学駒場キャンパス及び北九州のタカミヤ環境ミュージアムにて、対話イベント「水俣病と気候危機:対話がつなぐ環境正義」を開催しました(主催:東京大学共生のための国際哲学研究センター(UTCP)、共催:One Month for the Future)。東京、北九州、オンラインで合計約120人が参加し、水俣病と気候危機に共通する現代の課題や、今後必要なアクションについて考えました。

2024年は、水俣病患者と環境大臣との「懇談」の場で、環境省職員が「時間超過だ」として一方的にマイクオフしたことが問題になりました。水俣病認定に係る裁判は現在も続いており、水俣病事件はまだ終わっていないということを人々に知らしめています。また、グテーレス国連事務総長が警告したように2024年の夏は記録的な猛暑が発生し、日本でも熱中症被害や、農作物の価格高騰などの影響が出ています。海外でも、米国ロサンゼルスでの大規模な森林火災など、異常な気候関連災害も頻発しています。

この対話イベントでは、水俣病事件や気候危機をめぐる科学的知見や歴史、双方の共通点や環境正義を実践するために必要なアクションについて、若い世代のアクティビストが議論しました。

特に、双方に通じる共通点として、社会においてより弱い立場に置かれた人々がより深刻な被害を受ける構造や、加害企業が研究者や科学者を利用して問題の原因や自らの責任を隠蔽してきたこと、産業活動を優先する経済成長至上主義の思想が政府や経済界にあったことなどが指摘されました。

また、企業との向き合い方について、「企業を『敵』と見なすばかりのではなく、味方につけるべきではないか」との意見が出て多くの参加者が頷きました。他方で「市民の要請をことごとく無視して環境破壊的なビジネスを続けてきた企業もあり、『味方』になることを期待できないケースもある」などの見解も示されました。


一般参加者からは「水俣病に関して、具体的なエピソードなどが聞けて、より深く知りたくなった。実際に訪問してさらに自分で考えたい」、「『市民が声を上げること』や『市民が政治家を動かすこと』が必要だと思う」「私が(登壇者の若者と)同じ年齢の時には考えもしていないことを今(若者たちに)背負わせていることに反省している」といった声が聞かれました。また、「これからも水俣病事件などの公害や気候変動と環境正義に関する取り組みを続けてほしい、協力したい」との申し出もありました。


その後、同年10月3日には、朝日新聞にて「気候異変 水俣病通じ考える 東大でシンポ」との大きな記事でこのイベントのことを取り上げていただきました。「弱者の被害 受益者気づかぬ構造 共通」、「被害の重大性 伝えること課題」といった見出しとともに、上述のイベントの登壇者たちのメッセージを紹介いただきました。

 

One Months for the Futureでは、今後も、人の“生きづらさ”に向き合い、九州を拠点に多様性ある公正な社会をつくるために活動を続けます。

 


イベントを振り返って

イベントのスピーカーから、イベントを振り返ってコメントをいただきましたので紹介します(敬称略・役職は当時のもの)。


宮田晃碩(東京大学共生のための国際哲学研究センター(UTCP)上廣共生哲学講座 特任研究員)

「哲学・倫理学においては、『社会のあり方を問い直すことなしに環境問題に取り組むことはできない』という事実を踏まえ、「環境正義」について議論されています。しかし、社会が本当に変わるためには、実際に不正義を問いただし、正義を追い求める私たちひとりひとりの思いを確かめることも欠かせません。ライフワークとして水俣で患者さんたちに寄り添って活動されたり、自分自身の表現を模索しながら気候危機に対するアクションを展開されたりしているスピーカーのお話を焦点として、多くの参加者がさまざまな関心から心を寄せてくださったことを心強く感じます。これが新たな連携や活動の種になることを願っています」

坂本一途(水俣病センター相思社)

「『水俣病』と気候変動との話し合いの行く先に不安はありましたが、終了後には参加者が両者のテーマやコミュニティに問題意識や興味関心を広げてくれた様子が見られて嬉しかったです。活動の中で『水俣病』からこれからの話に繋げることへの限界を感じることもありました。気候変動のアクティビストの方たちは叶えたい未来を強く持っていて、当事者として活動するイメージを共有しやすかったです。『水俣病』を語る側としては、もし活動しなかったら未来はどうなってしまうのかと想像してもらう重石のような役割を果たせていれば嬉しいですし、今なお闘う患者たちに少しでも想いを寄せてもらいたいです」

飯塚里沙(国際環境NGO 350.org Japan)

「環境正義を一言で説明することはできません。しかし、このイベントで水俣病事件と気候危機の構造とその交差性について話せたことは、私自身にとって、環境正義について考えることの第一歩となりました。参加された皆さんにとっても、このイベントが身の回りで起きている環境や人権に対する『不正義』について考え、行動するきっかけとなれていたら嬉しいです」

佐々木彩乃(One Month for the Future)

「水俣病事件と気候変動は全く異なる問題であることは前提です。しかし、地域や環境への影響を無視した行き過ぎた経済成長を追求する権力と、その影響を被る周縁化された人々の苦しみの構造は酷似しています。今回のイベントが、皆さんにとって、忙しい日常で立ち止まり、暮らしを成り立たせる要素に対して想像力を働かせ、今この瞬間必要とされるアクションを考えるきっかけになれば嬉しいです」

桑山裕喜子(東京大学共生のための国際哲学研究センター(UTCP)特任研究員)

「今回の対話を通じて、水俣病事件と環境問題を振り返り、私たち自身があらゆる問題に対し被害者であると同時に加害者である点が明確になりました。環境問題に関しては、日々の生活の中で変えられることがたくさんある点も強調されました。例えば、私たちが意識せずに使っているペットボトルは、それを買うこと、消費することで、それらの需要量が変化します。環境問題は、人類の負の遺産である帝国主義や人種などの差別の問題ともつながっています。被害者であり、加害者でもあるからこそできることを一人ひとりが考え直し、他者と共有し合うことが重要です」

伊与田昌慶(東洋学園大学非常勤講師、国際環境NGO 350.orgジャパン・キャンペーナー)

「水俣など公害が発生した地域を訪れ、その歴史を学ぶ中で、多くの人が『二度と繰り返さない』と語る姿を見てきました。しかし、公害の教訓を新たな政策や産業のあり方に活かすよりも、むしろいかに効率的に忘却し、なかったことにしてきたか、環境問題の原因企業がいかにこの国の環境政策を弱化させてきたのかを、現在の気候変動・エネルギーの政策決定過程において、私たちは目撃させられているように思います。今回のような対話を通じて、『繰り返さない』との決意を、言葉としてだけではなく、かたちのあるのものにするため、どのような対話と行動が必要か、今後も考えて実践してゆきたいと思います」

伊与田昌慶

伊与田昌慶 Masayoshi Iyoda

1986年愛知県生まれ。2009年立命館大学国際関係学部卒業、学士(国際関係学)。2011年京都大学大学院地球環境学舎修士課程修了、修士(地球環境学)。現在、350.orgのジャパン・キャンペーナー、東洋学園大学非常勤講師。2007年より国連気候変動枠組条約締約国会議(COP)に参加し、気候変動交渉・政策の調査や政策提言、市民ムーブメントの構築に取り組む。著書に、"Local Energy Governance"(共著、Routledge、2022年)他。